禄田さつ

成人済。
オリジナル百合とピピポプ。

ピクブラ、ピクモフ、支部にも同名義でいます。

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投稿日:2017年01月07日 09:04    文字数:1,751

ゆびもじ

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目の見えなくなった少女と聞こえづらい少女の話です。
1 / 1
 彼女達の直接的な疎通方法は一つしかなくなっていた。

 七は、後天性で目が悪くなり目がほとんど見えず光をわずかに感じることしかできない。立花は、難聴で耳が聞こえない。二人は田舎の小学校で出会った。在りし日の数少ない色味のある思い出を、七は今でも思い出す。立花は補聴器を付けて普通学級に在籍していた。その異様さ故、男女かかわらず、嫌がらせを受けていた。その時ダメだよと制止し、担任教諭に報告していた自分が懐かしい。
「立花ちゃん、大丈夫?」
聞こえにくいことはわかっているから、七は気持ち声を大きく話しかけた。立花はめそめそと泣きながら「大丈夫、ありがとう」と彼女なりの発音で礼を返す。その発音しきれてない声にくすくすと笑うものもいた。けれど、七にとってはただ、疎通をとれるというだけでうれしかったのだ。

 立花のために、七は手話を覚えることにした。小学四年生のことだ。指文字「あ」から「ん」まで。それを覚え、立花と円滑なコミュニケーションをとることにしたのだ。まぁ、覚えてしまえば簡単だった。
「立花ちゃん、放課後図書室行こうよ」
「明日私の家で遊ばない?」
そう、秘め事のように素早く指を動かす。立花もそれに応じてうんうんとうなずいて、そして返答をし、会話が成立する。手をつないで下校した際の分かれ道では合言葉のように、きつねを表す指文字をした。

 そう、七と立花はお互いに恋情を持ち、惹かれあっていたのだ。

 ある時期から七は目が見えなくなった。小中と同じ学校だったものの、高校に入学する際にばらばらになり連絡を取り損ねた七は立花に夢破れた事実を伝えるすべもなかった。何とか中学の同窓会で会えたころには20歳をこえていた。
「七、立花ちゃんだよ。ほのか、もうちょっとこっちに連れてきて!」
「立花ちゃんこっちこっち」
杖を突きながら、中学時代の友人有紗に手を引かれた。香水か、リンスの香りかわからないが彼女たちはいい女子になっているんだなとざわざわとしている中で考えさせられる。その友人のほのかは立花を連れてきたようで、立花のうれしそうな声が聞こえる。
「七ちゃん!!!!」
「立花ちゃん?」
名前を呼び合ったが立花の声はしゅんとした。
「なんか変だけど何かあったの?」
指文字をしないところに違和感をもったのだろうか、それとも杖か。そんなことで七は頭がいっぱいになるが、有紗がすかさずカバーする。
「七ね、病気で目が見えなくなったの」
大きく、はっきりと聞き取りやすい声で。
「え、」
立花は声を詰まらせた。当然の反応かもしれない。福祉を目指して手話も勉強していて頑張るといった矢先に失明するなんて聞いたら憐みの感情の一つや二つあるだろう。七自身もそれを聞いて泣きそうになった。
「七ちゃん、元気にしてた?」
「うん、立花ちゃんとか同級生のことばっかり考えてた」
「そっかぁ」
その時周りの有紗やほのかがクスクスと笑い出す。七はなんとなく意味がわかった。思い違いじゃないとすれば、だが。
「まだ覚えてるかな、指文字。」
「多分、覚えてるよ。」
もう、50音すべては覚えてはいないだろうけどと若干の不安をもつ七をよそに立花は七の手を伸ばし、自分の元へ引き寄せた。
「いつも使ってたヤツだよ」
ゆっくり、ゆっくり、手話をする。七が触り、確認してから、また次の文字へ変える。
な な ち ゃ ん が ま だ す き
な な ち ゃ ん ば ま だ わ た し を す き で す か
「えっ、立花ちゃん」
頬が熱くなっていくのがわかった。七は幼い頃の合図のような。親指、人差し指、中指を下に指す「す」と、きつねの形をした「き」。ありあとその情景が浮かび、胸がいっぱいになる。苦しいくらいに膨らんだ。
「私も」
す き です
自己紹介したときの顎から髭のような形を作る「です」、それくらいならまだ覚えている。
「ありがとう、七ちゃん」
「うん、ありがとう、こちらこそ」
 立花が優しく抱きしめる。これからのことよりも、今、この瞬間が幸せだと強く感じた。
「七たちにしかわからないこともあるんだろうなぁ」
「でもいい感じの雰囲気だってことはわかるね」
有紗とほのかは微笑ましくふたりを眺めていた。
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ゆびもじ
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 彼女達の直接的な疎通方法は一つしかなくなっていた。

 七は、後天性で目が悪くなり目がほとんど見えず光をわずかに感じることしかできない。立花は、難聴で耳が聞こえない。二人は田舎の小学校で出会った。在りし日の数少ない色味のある思い出を、七は今でも思い出す。立花は補聴器を付けて普通学級に在籍していた。その異様さ故、男女かかわらず、嫌がらせを受けていた。その時ダメだよと制止し、担任教諭に報告していた自分が懐かしい。
「立花ちゃん、大丈夫?」
聞こえにくいことはわかっているから、七は気持ち声を大きく話しかけた。立花はめそめそと泣きながら「大丈夫、ありがとう」と彼女なりの発音で礼を返す。その発音しきれてない声にくすくすと笑うものもいた。けれど、七にとってはただ、疎通をとれるというだけでうれしかったのだ。

 立花のために、七は手話を覚えることにした。小学四年生のことだ。指文字「あ」から「ん」まで。それを覚え、立花と円滑なコミュニケーションをとることにしたのだ。まぁ、覚えてしまえば簡単だった。
「立花ちゃん、放課後図書室行こうよ」
「明日私の家で遊ばない?」
そう、秘め事のように素早く指を動かす。立花もそれに応じてうんうんとうなずいて、そして返答をし、会話が成立する。手をつないで下校した際の分かれ道では合言葉のように、きつねを表す指文字をした。

 そう、七と立花はお互いに恋情を持ち、惹かれあっていたのだ。

 ある時期から七は目が見えなくなった。小中と同じ学校だったものの、高校に入学する際にばらばらになり連絡を取り損ねた七は立花に夢破れた事実を伝えるすべもなかった。何とか中学の同窓会で会えたころには20歳をこえていた。
「七、立花ちゃんだよ。ほのか、もうちょっとこっちに連れてきて!」
「立花ちゃんこっちこっち」
杖を突きながら、中学時代の友人有紗に手を引かれた。香水か、リンスの香りかわからないが彼女たちはいい女子になっているんだなとざわざわとしている中で考えさせられる。その友人のほのかは立花を連れてきたようで、立花のうれしそうな声が聞こえる。
「七ちゃん!!!!」
「立花ちゃん?」
名前を呼び合ったが立花の声はしゅんとした。
「なんか変だけど何かあったの?」
指文字をしないところに違和感をもったのだろうか、それとも杖か。そんなことで七は頭がいっぱいになるが、有紗がすかさずカバーする。
「七ね、病気で目が見えなくなったの」
大きく、はっきりと聞き取りやすい声で。
「え、」
立花は声を詰まらせた。当然の反応かもしれない。福祉を目指して手話も勉強していて頑張るといった矢先に失明するなんて聞いたら憐みの感情の一つや二つあるだろう。七自身もそれを聞いて泣きそうになった。
「七ちゃん、元気にしてた?」
「うん、立花ちゃんとか同級生のことばっかり考えてた」
「そっかぁ」
その時周りの有紗やほのかがクスクスと笑い出す。七はなんとなく意味がわかった。思い違いじゃないとすれば、だが。
「まだ覚えてるかな、指文字。」
「多分、覚えてるよ。」
もう、50音すべては覚えてはいないだろうけどと若干の不安をもつ七をよそに立花は七の手を伸ばし、自分の元へ引き寄せた。
「いつも使ってたヤツだよ」
ゆっくり、ゆっくり、手話をする。七が触り、確認してから、また次の文字へ変える。
な な ち ゃ ん が ま だ す き
な な ち ゃ ん ば ま だ わ た し を す き で す か
「えっ、立花ちゃん」
頬が熱くなっていくのがわかった。七は幼い頃の合図のような。親指、人差し指、中指を下に指す「す」と、きつねの形をした「き」。ありあとその情景が浮かび、胸がいっぱいになる。苦しいくらいに膨らんだ。
「私も」
す き です
自己紹介したときの顎から髭のような形を作る「です」、それくらいならまだ覚えている。
「ありがとう、七ちゃん」
「うん、ありがとう、こちらこそ」
 立花が優しく抱きしめる。これからのことよりも、今、この瞬間が幸せだと強く感じた。
「七たちにしかわからないこともあるんだろうなぁ」
「でもいい感じの雰囲気だってことはわかるね」
有紗とほのかは微笑ましくふたりを眺めていた。
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